容器の容量が、充填機の種類を決める

世の中には、非常に多種の容器が存在しますが、液体充填機で使われる容器は、下記のように大きく2つに分類することができます。順次説明いたします。

1. 規格品の容器

JIS規格などで決まっているため、メーカーが違っていても、ある程度は大きさや形が同じです。規格品はハンドリングや輸送時に便利なので、沢山の種類があります。硬い容器の例でいうと、積水化学の20Lポリコンとコダマの20Lタマカンなどは、多くの化学薬品工場の方が使っています。また積水化学のハイテナータイプの容器や、昔よく石油を運んだ20L扁平ポリ容器、金属でできた一斗缶も広く使用されています。大きいものでいうと、200Lドラム(缶)、1トンのIBC容器がそれにあたります。一方、柔らかいタイプの容器では、厚手の段ボールに、スパウト(注ぎ口)が付いた柔らかい袋(内袋)を入れた、BIB(バックインボックス)と呼ばれるタイプの容器も規格品で、5L, 10L, 20Lが非常に多く使用されています。

 ただいずれも注意しなくてはいけないのは、規格品であっても、全く同じ大きさ・形ではないことです。メーカー間だけではなく、メーカー内でも、少しずつ異なっていて、我々専門家は、その違いを気にして機器を製作します。このような状況なので、使用する予定の容器を充填機メーカーに渡して、充填機の性能をしっかり引き出せるように設計・調整して納品してもらう事が重要です。特に、容器の搬送装置が付いているより複雑な充填機の場合は、箱の大きさの違いに、より敏感です。同じメーカーの同じ品番の製品でも、実は半年・一年という期間で比較すると、そこそこ大きさが変わることがあって、我々は、そのマージンを考えて設計をします

2. 非規格品の容器

 非規格品の容器の多くは、小さい容器です。2Lより小さい容器でよく見られます。特に、1L未満の容器は形状のバリエーションが非常に多く、充填機メーカー泣かせのものが多いです。種類は大きく分けて、ポリやガラスなどの固めの材質のものと、パウチやスパウトパックと呼ばれる柔らかい袋状のものがあります。パウチやパックは、最近家庭用洗剤で良く使われますね。中身が少なくなると、自立できなくてペタン、と倒れてしまうあれです。

 これらの容器のうち、硬い材質の容器は多くの場合、充填ノズルが小さめで液の吐出量の小さい充填機を使用することになります。しかしスパウトパックの場合は、スパウト(注ぎ口)が更にかなり小くなるため、充填ノズルをスパウト(容器口)に刺し込みつつ密着させた状態で液を充填します。そうしないと液が漏れてしまいます。また、袋の容量限界ギリギリまで充填することも多いので、充填前と後に、袋の中の余計な空気を真空引きする必要があったりなど、少しややこしくなる傾向があります。その為、スパウトパックの場合は、スパウトパック用の充填ノズルを持った専用充填機になります。詳細は、今後順次加筆していきます。

3. 容器による充填機の選び方

 先に述べましたように、充填機は、容器の容量によりそもそも機器が異なってきます。開発技研では、下記のようなシリーズが各充填容量や容器に対応します。大きく分けて、下記の要領範囲で3つに分かれるのは、他社さんの機器でもそれほど違いはないと思います。充填しようと思っている容器の容量が、これらの容量範囲に入っていれば、一台で安上がりに充填できる可能性が高くなります。

小型容器用(100L~4L)

  • ノズル固定式小型充填機β10FS
  • ノズル固定式充填機β10FS-SM (エンコーダー付ステッピングモーターモデル)
  • ノズル昇降式充填機β10LSD (エンコーダー付ステッピングモーター・高粘度溶液用)
  • ノズル昇降式圧入充填機β10LSP-PF (特殊容器用、ノズル圧入式)

中型容器用(4L~20L)

大型容器用(200L~)

4. ではなぜ容量によって機種が異なるのか? 大きい機器を使って何とかならないのか

 ではなぜこのように充填機は、容量ごとに機体が異なってしまうのでしょうか? 大きな充填機を使って、「大は小を兼ねるでしょ!」的に小量充填をすると何がまずいのでしょうか? 皆さんも、どこかに限界があるだろう事は、何となくわかっていると思います。でも具体的に、なぜ駄目なのでしょうか? 理由をちゃんと整理しておくと、充填機に何か仕様変更の必要があった時に、どこまで仕様を修正してよいものかの判別が付くようになるので、この機会に整理しておきましょう。 その理由は主に、下記の3つあると考えられます。

・ポンプの性能の限界
 1L容器以上の充填では、多くの場合、吐出量が多い渦巻きポンプが使用されます。ポンプについている電動モーターの回転速度自体は、周波数インバーターで制御できます。しかし大型充填機で小量充填をしようとして、ポンプの回転速度を落としすぎると、ある回転数からポンプの吐出量が不安定になってしまうのです。一度定常的に流れた状態になれば一定であっても、一度停止させて、もう一度再開させると本来の速度に到達するのに時間がかかる(もしくは到達しない)という現象が、充填ラインなどに組み込まれたポンプでは見られます。某有名メーカーの400W渦巻きポンプの例では、既定の60Hzから周波数を下げて10Hzぐらいになってくると、この現象が見られます(この限界値はメーカー・機種・使用環境により異なります)。そうなってくると、「1トン充填機の充填ノズルの先を細くして、ゆっくり流して4L容器に充填しよう!」とい試みはやめた方が良い、と言う事になるのです。

・秤の限界
 意外にこの点に気が付いていない方がいらっしゃるので、挙げておきます。秤の何が限界かと言うと、表示分解能です。端的な例を言うと、1トン以上の秤では秤の表示分解能は0.5kgもあったりします。つまり、0kg表示の次は、0.5kg、次は1.0kgです。これで1L容器の充填をする人はいないと思いますが、20L充填ぐらいはどうか? いや、無理ですよね。通常の20kg充填だと、100g未満の数十gの充填誤差を気にするレベルになりますが、5gぐらいの表示分解能は欲しいところですね。ある有名メーカーの100kg秤は、表示単位が5g単位ですが、もしそれを使って100ml容器の充填をして誤差を5g単位で評価しよう、と言うのは無理がありますよね。そのあたりを総合的に考慮すると、上記のような3つの分類(小型、中型、大型)となるのです。

・機中配管の太さからくる限界
 ある意味、解を出すのが一番難しいのが、機中配管の太さかもしれません。溶液の流量の観点からは、配管の太さはとても重要で、溶液の比重や押出す圧力よりも、強く流量に影響します。太さが太くなった分、そのまま流量が上がるイメージです。流量の上昇は、充填時間の短縮におおむね直結しますので、配管の太さは充填機の性能にとても重要です。
 しかし配管やホースが太くなると、いろいろ小さな問題も発生してきます。詳しくは別の機会にお話ししますが、充填機を長く使ってると、部分的に機中・機外配管を交換する必要が出てきたりします。腐食性や反応性がある化学薬品の場合は、ホースを1~数カ月ごとに交換する場合もそれほど珍しくありません。その為、不必要に配管が太いと、ランニングコストも確実に高くなります。また機外のホースに関しては、太いと取扱いし難くて作業者にストレスがかかるので、その点も現場の意見を聞く必要があります。
 もう一つ、機中配管を太くすると発生する問題は、充填作業後に機中に取り残されてしまう溶液の量が増えてしまう事です。これは使用するポンプの種類が何かによっても量は変わってきますが、コストが高い溶液の場合は、ほぼ充填しきってしまうか、機中に取り残された溶液をできるだけ回収できる配管のデザインが必要です。しかし、機中配管が太くても、ダイヤフラムポンプのような自吸能が高いポンプでガンガン押し出してしまえば、機中の液は簡単に充填容器に出きってしまうので、そういう解決法もあります。
 最初に述べた難しいというのは、これらの点を考慮して、ちょうどバランスが良い配管の太さを選ぶ必要があることです。よくある例ですが「うちはそんなに早い充填機でなくて良いよ」とおっしゃって細い配管にしたお客様でも、充填機を使ってみると、やはり早いに越したことはないという事に気づかれて、納品後に配管を太く改造したケースもありました。開発技研では、この配管の太さなどの難しい仕様は、担当の方にいろいろ話を聞かせて頂いたり、現場や作業をしている方に直接話を聞いたりして、ベストな太さをご提案させていただいています

 以上いろいろ書きましたが、これらはいずれも、一般的に流通している機器を使った時の開発技研での判断基準です。非常に特殊な一点物の装置(国の研究プロジェクトなどで作るもの)では、コスト以上に性能最優先で作られる場合があります。その様な場合は、使用素材、加工精度・手法、プログラムレベル、などの選択範囲や選考基準が大分異なってくるので、また別の判断基準が必要です。
 ここでお伝えしたいのは、充填機カタログの仕様の表に書かれている性能値の行間には、忘れてはいはけない重要ポイントが幾つも隠れている事です。上記に挙げた3点は、あくまでもその一部ですが、機種選定の際に、そのあたりの考え方をメーカーに聞いてみると良いのかもしれません。技術者は皆、喜んでいろいろうんちくを話してくれると思います。それによって、その会社の設計思想・取組み方なども伝わってくるかもしれませんね。

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